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「A Dairy〜ある留学生の日記」 チョウ アロン
韓国出身。2001年来日。アジア学生文化協会日本語コースを経て、
慶應義塾大学文学部人文社会学科4年在学中。
卒論のテーマは「戦争画に見る日本―藤田嗣治の戦争画を通して」。
趣味は美術鑑賞。将来はキュレーターになりたい
 
 

日本に来てもう5年目。今から4年半前、たった今二十歳をすぎた一人の女の子が新宿の駅内で道を迷っていた。言葉も何もしらないまま東京にきて、大学でまた勉強を始めるようになり、経済的にも完全に親から離れ一人で生計を立てることを覚えたから、私は、ここ東京で大人になったことになる。ソウル育ちの私だが、最初は大都市東京の整頓された風景や素敵な夜景、そしてそれにふさわしい星のキラキラする夜空にはどこかであこがれを感じていた(ソウルはスモーグのため星が見えない)。

東京の夜空に見慣れた今になって振り返ってみると、その間東京であった様々な出来事がまるで映画のフィルムのようにワンカットずつ区切られて思い出される。日本人のように日本語が話せたらと願っていたあのときは、どうしても同世代の日本の若者と友達になりたくて、一言しゃべりたくてしようがなかったが、残念ながら日本語の下手な外国人には(それがイングリッシュネーティヴでもなければ)なかなか興味を持ってもらえなかった。言葉の壁がそれほど高いものだとは、そのとき知った。その後も日本語を勉強すればするほど自分の頭の悪さに嘆き、友達といえる友達を作られないと誰に言ってるのかもしらないような文句ばかりいう時期が続いたが、まだ21だから頑張ろうと、いままでのように頑張っていけばいいと粘った。

大学入学と同時にアルバイトを始めてからいよいよ本番の日本生活が始まった。日本語学校に通っていたときは学校に行けばいろいろな国からきている友達といつも一緒だったから日本に住んでいる実感がなかった。しかし私たちの共同で最高の目標であった「日本語が上手になる」こともだんだん高いスコア(日本語能力試験など)へとその実を結んでいき、1年後はそれぞれ違う道を歩むようになっていた。だが、日本語が話せても日本人と勉強や仕事を共にするにあたっていわゆる「日本式マナー」をおぼえるのはそんなに簡単な事ではなかった。それに頑張っても日本人にはなれない留学生にとっては、間違えた日本語や日本のマナーを直してくれるありがたいことばもときには鋭い針のように痛く感じた。しかし、私がそのように落ち込んでるときこの豊かな国は奨学金や授業料減免といったプレゼントを与えて励ましてくれたり、いい人々に出会うチャンスをくれたりもしながら私を我慢強く育ててくれた。

決して日本でのことすべてがいいことであったわけではないし、ときには差別を感じたり、どこにさせばいいのか分からない怒りをおぼえたり、トイレで一人で泣いたりしたこともあった。しかし結局、ここ東京での暮らしが今の自分の暮らしであって、それが自分の人生そのものであることは否定できないし、しっかり愛着もついてしまった。

もし留学をしていなかったら、たぶん自分の周りの友達と同じように、贅沢まではしないが親元でなんの不自由もなく学校に通い、それなりの学生生活を楽しんで、就職をし、結婚もしていただろう。もちろんそのなかにも自分のアイデンティティや自分の人生そのものへの悩みはあっただろうとは思うが、そのような生活と交換した東京での暮らしが自分にとってはかけがえのない大きな、大きなプレゼントであるように思える。また、日本語というひとつの言語を学ぶことによって自分がものすごく素敵な書斎を持ったように思える(実に日本は翻訳の国であって、国内書籍のみならず信じられないほどたくさんの海外からの本を日本語に書き移しているのだ!)し、外国人として暮らしながら経験したいろいろなことを通じて、人間として一度は悩むべき問題についてより低い姿勢で物事を考えられるようになった気もする。

今年、留学生として最後の年になるのだが、この春スランプに落ちていた私に奨学金をいただけるチャンスが与えられた。関係者の方々に感謝の言葉を伝えたい。また学生として充実した生活をすごすことがこれらの援助にこたえる最善のことだと知り、残りの時間をより充実に過ごせるようにこれからも頑張っていきたい。

 
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