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奨学生エッセイ
 
 
 
ウクライナ出身/2005年4月来日
神戸大学大学院 人間発達環境学研究科 博士課程 3年在学中、臨床心理士
趣味:アニメ、絵画、茶道
将来の夢:臨床心理士として日々腕を磨きたい
研究のテーマ:バイリンガルの文化的アイデンティティ
 
 

博士課程でアイデンティティの研究を進めている傍ら、臨床心理士として活動しています。最近は思春期の子ども(半分大人?)と関わることが多いのですが・・・<困っていることはある?>「ないです」<そっかあ。学校はどう?>「普通です」<なるほどねえ。休みの日はどんなことするの?>「特に」。さあ、どうやって話を聞こうものか。しかも彼らは自ら足を運んで面接の場にやってくるのです(納得が行かないまま連れてこられる場合も少なくないですが)。

だけど、漫画やアニメだと話がはずんでくることがあります。それはそうですよね。誰でも自分の弱いことを話すよりも、好きで楽しいことを話題にしたいものです。<最近は何を見たの?>「ワンピース」。一週間後に同じ質問をすると、ためらいながらも「・・・進撃の巨人」。すると、あー、“空気を読んで”誰でも知っているような無難なアニメを言ってくれたんだなあと思ったりします。そこで,<へえ、最近どんどん話が進んでるよね>なあんて言うと、こちらもびっくりするぐらいに表情が変わったりします。そして、そこからオタッキ―な会話が始まるのです・・・。

いったん心のドアが開くと、いろんなことを話します。好きな登場人物は誰かとか、あの場面はよかったとか、展開はどうなるかとか。中にはアニメの話だけをして終わってしまう面接もあります。そうして時間が過ぎ、卒業や症状の軽減によりカウンセリングが終結を迎える時がきます。すると、最終面接で彼らは初めて語るのです。「ずっと自分が自分じゃない気がしていた」「忙しい親に甘えることができなくてずっと寂しかった」「人の視線が怖くて誰も信じられなかった」と。50 分間まるまる話す人もいれば、最後に一言だけ言う人もいます。いまさら?なんて思わないでください。本当は、彼らはこのことをずっと訴えてきていたのですから。死ぬことの恐怖を乗り越えてでも大切な人を守ろうとする『進撃の巨人』の登場人物たち。引きこもりから自分らしさをみつけ立ち上がっていく『ローゼン・メイデン』の主人公などなど。それぞれのアニメの物語に心の中の葛藤を重ねたり、時には主人公たちに癒され励まされたり。なかなか言葉にならない虚無感やもやもやを抱えながらも、面接の中で必死に訴え、自分と向き合ってきたのです。

もちろん、すべてはケース・バイ・ケースです。アニメの話を全くしない人もいれば、アニメよりも現実的な問題に焦点を誘導して面接を進めなければいけない人もいます。だけど、ある少女が「先生が外人でアニメ好きでよかった」と言ってくれたのを今でもよく覚えています。実際のところ、国籍も、アニメの知識も思春期の心を読みとく上ではあまり関係ないと思います。しかし、時々、彼らの本来の力を引き出すためのチャンネルの役割を果たしてくれたりするものですから、やめられないのです。え?どっちをって?それはもちろん両方です(笑)。はい、私は外人でオタクな臨床心理士なんです。

 
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