従来の安全保障が国家の領土、主権と自国民の生命、安全を守ることを目的としていることに対して、環境安全保障は、人間の生命、福祉、その基盤となる環境、生態系、資源をもその対象としています。地球温暖化、オゾン層の破壊、森林伐採といった環境破壊や資源の枯渇を、国家や個人の生存を脅かす脅威と捉えることで、これまで軍事面に偏っていた安全保障概念を拡大させている点が特徴です。
2013年1月から、中国における微小粒子状物質PM2.5による大規模かつ深刻な大気汚染が発生したことを契機に、日本への越境大気汚染が大きく報道され、社会的な話題となりました。実際に、西日本では広範囲にわたって、環境基準を超える高濃度のPM2.5が観測され、中国大陸からの越境大気汚染による影響があったものと報告されています。こうした状況を踏まえて、日本の環境省は、同年2月、「微小粒子状物質(PM2.5)に関する専門家会合」を設置し、「注意喚起のための暫定的な指針」を取りまとめました。その後、多くの地方自治体で注意喚起のための体制整備がなされました。日本へのPM2.5による越境大気汚染の影響については、特に、2013年3月から5月にかけて中国大陸から黄砂とともにPM2.5が飛来し、影響が大きいと言われていますが、夏に入り一部の自治体では注意喚起が出されるなど、一時的に濃度が高まる事態も生じています。一連のことを経て、PM2.5に関する国民の関心が一気に高まりましたが、そもそもPM2.5については1970年代からその危険性が世界各国で指摘され、その後様々な調査研究が進められてきた古くて新しい問題です。
このような越境大気汚染は、健康や食糧生産、生態系への影響が懸念されます。さらに、広域大気汚染は気候変動を引き起こし、人間の社会生活や生態系に大きな損を与える危険性もあります。中国の環境問題はもはや中国の国内問題とは言い切れなくなっています。中国で持続可能な発展を実現することが、日本や東アジアはもちろんのこと、地球規模での持続可能な発展を実現するための必要条件になったといっても過言ではありません。
私は国際環境保護協力における、日中関係の再構築に携わる外交官になるべく日本へ留学したいと思いました。私が外交官という職業に興味を抱き始めたのは、2007年の日本の甘粛省蘭州市大気環境改善計画がきっかけでした。私は中国甘粛省出身で、子供のころからひどく大気汚染の被害を受けています。その際に日本の方々から頂いた温かい支援や多額の援助に感銘し、隣国との友好関係の大切さを実感しました。他方、この数年間に教科書問題や領土問題が再浮上して国内の雰囲気が一変し、支援活動にも影響が及んだことを肌身で経験したことにより、外交を通じた安定かつ平和的関係の構築の重要性と難しさを痛感しました。そこで、将来的に自己の経験や語学力を活かして何らかの形で日中関係のために働きたいという思いが強まり、外交官という職業に対する思いも次第に強まりました。
そのために私は、従来型の大学院において一般的な「学問のための学問を追究する研究者」にはなりたくなく、様々な社会経験を基に、異文化理解の現場で直面する諸問題を専門的、学際的視点から見直せる能力を身に付け、国際社会における人と文化の交流と変動の様相を多元的に捉え、総合的に分析、理解する力のある、グローバル化に適応できる人材として中国に帰って、日中交流の現場で、或は教育現場で日中の相互理解と両国の文化的友好関係の深化にささやかな貢献をしたいと思っています。 |