私は来日し、現在5年目になりました。この5年の間、異文化の環境で生活する、異文化に慣れるまでは色んな大変だったことがありましたが、故郷で経験できない様々な新しいことを経験し、新しい知識を身に付けて、5年前よりもさらに成長したと考えています。留学と言う誰にでもあるわけではない貴重な機会を大切にして、自分自身の夢と未来のために、日々研究に励んでいます。
私の研究テーマは「写実表現に有用なテンペラ・メディウムに関する調査」です。この研究は故郷では学ぶことができないもので、来日して初めて出会った絵画技法であり、前回の研究テーマとも繋がりあることから、大変興味を持ち、ぜひ研究したいと思ったテーマです。
画家は自らの目指す絵画表現について常に思考し、その表現のために最も相応しい技法や材料について日々探求しています。わたしは写実的具象絵画を研究しています。その上で自ら目指す表現のためにどの様な技法、材料を使用するべきか、自らに合った技法、材料は何かを深く理解し駆使できる技量が必要であると考えています。
テンペラという技法と出会ったのは横浜国立大学大学院の一年時です。その頃、テンペラという技法があまり詳しくない私を驚かせたのは、テンペラ・メディウムによって油絵具が水で溶けることでした。これは、テンペラ技法の大きな特徴であると言えます。テンペラ・メディウムは一般的には油と膠質からなる乳剤による水溶性の接合剤(メディウム)によって色材(顔料)を混ぜ合わせたものを言います。テンペラとは水溶性の絵具の全てを指します。テンペラは一般的に、卵を媒材とした絵具を称す場合が多いです。卵は、全卵、卵黄、卵白などその処方により使用する部分が変わってきます。卵を用いたテンペラの特長としては、その保存性の高さが挙げられます。初期ルネサンスの卵テンペラによる板絵はその後に発明された油彩画が暗く色が焼けてしまっているのに比べ数百年経った現在でも明るさを失わず、その美しさを保っています。これらから、テンペラ・メディウムの重要さが分かります。こういう古典技法の研究から、美術は古代から今までどういうように発展して今のようになったのかを理解できると考えています。
私は大学院で卵黄テンペラ、卵と油彩の混合テンペラなどの技法と出会い、それらを用いて研究をし、制作してきました。大学院で、研究のために、卵黄テンペラや卵と油彩の混合テンペラを学び、制作を行いましたが、他の蝋テンペラ、カゼインテンペラについても、これらのメディウムの作製方法や技法の調査研究を大学院の研究生の一年間で行いたいです。そして、この一年間、修士課程で行った研究にさらに新しいテンペラ技法の研究を続け、博士課程に於いても、現在の研究を継続して行きたいと考えています。博士課程では、今までにはなかった多くの経験をすることができます。その中で、自分の作品は他者からどう見えるのか、自分はどういう画家になるべきかを考える機会に恵まれると考えています。
私は将来、日本の大学の博士課程修了後に故郷に帰って、日本で学んだ知識で、故郷の美術の教育や美術の領域の発展に貢献したいと考えています。 |