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「いただきます」
中国・内モンゴル自治区出身/2023年4月来日
東京大学大学院 経済学研究科 マネジメント 修士卒業
趣味:筋トレ、海外旅行
将来の夢:世界を一周して旅行する
現在の職業:金融業
 
 

4月から社会人となり、これまでとは大きく異なる新たな 生活が始まりました。従来「当たり前」だったことが急に不思議に感じられ、逆に変化が次第に「新たな当たり前」として受け入れられるようになってきました。

そうした中でまず向き合ったのは、自分自身の「立場」の変化です。これまでは、誰かの娘であり、友人であり、学生であり、ときに赤の他人として過ごしてきましたが、初めて「〇〇の担当者」と名乗ることができるようになりました。もちろん、担当しているのはほんの一部の業務にすぎませんが、チームの一員として課題の解決に取り組み、海外の子会社にささやかながらも影響を与え、それが現地や会社全体にとって意義ある結果に結びついたときには、「大人になるってこういうことなのかもしれない」と、ひそかに甘美な気持ちを抱いたものです。教科書の中の知識が目の前で立体的に現れ、これまで見えなかった社会の仕組みが、少しずつ肌で感じられるようになってきました。

しかし、その一方で、まるで鏡の裏側を見るように、うまく処理できない変化が予想もしないタイミングで現れることもあります。かつて受けた言語学の授業では、新しい言語と文化に適応するには「ハネムーン期」「カルチャーショック期」「回復期」「適応期」の4 段階があると学びました。東京に来て2年が経ち、「ようやく回復期かな」と思っていた矢先、まさかの“back to culture shock”期に突入するとは思いもよりませんでした。入社から一ヶ月が経ったある日、ありがたいことに部署で歓迎会を開いていただきました。感謝の気持ちをきちんと伝えようと「一ヶ月お世話になりました」と挨拶したところ、「まるで退職の挨拶みたいだね」と優しい笑いが巻き起こり、自分の中で築きつつあった“頼れる新人”のイメージが一瞬で崩れてしまったような気がして、内心では悔しさがこみ上げました。

敬語との格闘は、日本語を学び始めた日から今日まで続いており、入社してからはそのプレッシャーがさらに増しています。特に会議の司会など、もっとも言葉づかいが問われる場面では、緊張のあまり舌が動かなくなり、「無筆で恐縮です」と心の中でつぶやいてしまうこともあります。敬語の中でもとりわけ難しいと感じるのは、自分と相手の位置関係の調整です。相手の行為をどう表現すべきか、自分の行為をどうへりくだって伝えるべきか、未だに迷うことが少なくありません。中国語にも敬語的な表現はありますが、主に書き言葉に限られ、口語における複雑さは日本語ほどではないため、それほど困難には感じてきませんでした。たとえば、「させてください」と「させていただきます」は一見似た意味を持ちながらも、相手の承諾をどのように想定するかという点で繊細な差があります。敬語表現の中には、相手の存在を前提にした思考の文化が根付いており、「まず相手を立て、そのあとに自分を置く」という価値観が透けて見えるように思います。こうした日本の文化には、相手への敬意や協調を大切にする一方で、同調圧力のような一面も確かに存在します。「空気が読めない外国人」と「新鮮で面白い外国人」の間で、いかにバランスを取りながら振る舞うかは、今後も時間をかけて試行錯誤していく課題だと考えています。

変化を通じて、新たな視点が芽生え、自分自身を見つめ直す機会にも多く恵まれました。例として、日本では食事の前に「いただきます」と言う習慣があります。日本語を学び始めた当初は、その意味が全く分からず、誰に対して言っているのか戸惑ったものです。作った人が目の前にいるわけでもなく、時には「動物たちへの皮肉?」とさえ思ってしまったこともありました。しかし、相手との位置関係という日本文化の視点を理解するにつれ、「貴重なものを、平凡な私が受け取らせていただきます」という深い感謝の気持ちが、その一言に込められているのだと気づきました。最近ようやく、食事の前に自然と「いただきます」と口にできるようになりました。

これからも、人生には予期せぬ変化や挑戦が待っているでしょう。三度目のカルチャーショック期を迎えるかもしれません。けれども、どんな出来事も、自分を新しくしてくれる贈りもののように受け止めたいと思います。そしてそのたびに、心の中でそっと唱えたいのです。

「いただきます」

 
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