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奨学生エッセイ
 
 
 
先輩と後輩の立場から見る礼儀というもの
中国出身/ 2012年10月来日
東京工業大学大学院 物質理工学院 修士課程1年在学中
趣味:小説創作、旅行、ドラマ鑑賞
将来の夢:省エネ事業に貢献する、小説を一冊出版する
研究テーマ:分子膜パターニング表面における指の摩擦特性と摩擦刺激に対する応答
 
 

昨年4月から研究室に所属しました。研究室に行った初日はドキドキしていました。日本語の勉強は10年近くの経歴がありましたが、毎日朝から晩まで日本人と同じ部屋にいる経験はまったくなかったです。挨拶をどうすればいいか、敬語をどう使えばいいか、どの程度の親しみを保ち、また、どのような会話をすべきなのか、不安なことがいっぱいでした。

そんな細かい質問に対して教科書には答えがないので、日々の生活で観察して勉強するしかありませんでした。午前中研究室に来るとき、午後帰るときにそれぞれ「おはようございます」、「お疲れ様です」と元気な声で言うことを最初に覚えました。また、先輩と先生の会話や、同輩と先輩の会話に耳を傾けて、敬語の使い方を学んでいました。

幸いなことに、先輩たちは様々なことについて親切に教えてくださったので、大きく苦労したことはなかったです。最初に日本語に自信がなかった頃は、研究の進捗報告からメールの文面まで文法を訂正してくださいました。実験の操作方法や研究室での注意事項の説明も丁寧で分かりやすかったです。重い一斗缶をかわりに運んでくださったり、割れたガラス器具を拾ってくださったりして、細かいところまで気を配ってくださいました。大学院入試の出願時期になったら、「書類は揃っているか?」と聞いてきて、学会に出る前に「○○時に××駅で集合して一緒に会場に行こう!スーツ着てね」と誘ってくださいました。先輩方にお世話になり続ける環境で、研究室生活にだんだん慣れてきました。

しかし、どうしても気がすまないことが一つありました。最も簡単な礼儀である挨拶に関することでした。毎日一番早く研究室に来ていた先輩の席は、棚の裏という、ドアから見えないところでした。彼に対して、いつも2番目に行く自分は挨拶をしなければならないと思いましたが、目が合わないとなかなか言葉を口に出しにくく、困っていました。時々はわざわざ別のことをするふりをして部屋の奥の方へ行き、何気なく挨拶をしました。もしくは棚の隙間から目を合わせて挨拶しました。しかし、どうしても用事が見つからない場合は、静かに自分の席に着き、黙っていました。そのようなときは毎回しばらく落ち着くことができませんでした。「また失礼なことをしたなあ」といつも自分のことを咎めていました。

帰宅するときも似たようなことがありました。夕方は朝と違って、みんなはデスクワークより実験をしている場合が多いです。したがって、挨拶しようとしても目が合う人がなく、漠然として声を出すしかなかったです。多くの場合には誰かから返事が来て、それで安心して帰ることができましたが、たまには返事してくれない先輩がいたり、まったく誰からも返事がなかったりすることがあります。そんなときには、自分のことが嫌がられているのかなあとしばしば思いました。

そのような不安もある生活の中で、つい今年4月の大学院進学に伴って「先輩」と呼ばれるようになりました。また、研究室内の席替えによって、今度は先輩が座っていた奥の席で作業するようになりました。研究室を見る立場が変わったことによって、挨拶をはじめとする礼儀というものに関して違う考えが生じました。

先輩が卒業されたことによって、研究室に最初に着く人になりました。次に来る後輩の中では、去年の自分みたいにわざと挨拶をしてくれる人もいるし、静かに自分の席に着く人もいます。挨拶をするかしないかの行為によって、後輩に対して違うような印象や思いを持つことはまったくありません。授業の履修手続きから講義の内容まで、何か質問されたら知っていることを全て教え、生活上の困惑の相談相手にも喜んでなってあげます。同様に、帰宅の挨拶をされた時には、実験に夢中になって返事し損ねたことは時々ありますが、それも「後輩のことが嫌いだから」などの理由とは全然関係ありません。つまり、現在先輩の立場から見れば、「挨拶をきちんとする」ことや、「先輩には絶対いつでも丁寧語を使う」ことなど、しっかり覚えて守らなければならない鉄則だと考えていたルールを全然気にしていないことに気付きました。

人間社会において、挨拶はもちろん良好な人間関係を築くための大事なものです。元気な挨拶を含め、礼儀正しく行動できる人は高く評価されます。なぜなら、挨拶は相手に対する尊敬や感謝の気持ちを表すことができるからです。ただし、挨拶も一般的な意味における「言葉」と同様に、交流するためのツールだと考えます。すなわち、尊敬や感謝の気持ちを持ち、それを別の言葉や普段の行動で十分表すことができれば、毎回必ず挨拶をすることにこだわる必要もないと思います。たまにタイミングが悪いのが原因で挨拶ができなかったら、それを気にしすぎて失礼だったか否かを悩むことより、その時間を有効利用して自分の研究や他人のお手伝いに使った方がもっと有意義だと考えます。

先輩になったことによって、悩んだあまりストレスになる程度まで完璧な礼儀正しさを追求することをひかえることを決めました。また、自分ほど敏感な人がいないかもしれませんが、後輩であった頃の気持ちを思い出して、先輩として後輩にとってもっと挨拶をしやすいような環境を作ってあげたいと思っています。

 
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