ベトナムは長い戦時体制によって工業化が本格化した時期が遅かった。それゆえ、ベトナムの経済と科学技術は1980 年代後半から右肩上がりの急速な経済成長を遂げたタイなどの近隣東南アジア諸国と比べると、まだ成長度は低いと言える。現在、先進国との技術的な距離を短縮するために、海外から知識と技術を導入する必要があると考え、留学を希望する学生が多い。私もその中の一人であった。私が祖国ベトナムを離れた理由は、世界でも通用する力を身につけるためである。その力とは深い専門性と幅広い知識であると考え、祖国ではこれらの力を身につけることは出来ないと考えたため留学を決意した。留学先にイギリスやアメリカも考えたが、私が日本への留学を決心した理由は二つある。一つは、私は学部時代では政治経済学科目を勉強した時に、日本に留学した先生が描かれた日本像は私にとって非常に魅力的であり、是非日本へ留学したいと感じた。もう一つは、日本は戦後、経済の高度成長を遂げている。この経験は近代化するベトナムにとって数多くの学ぶべき点があると思う。今まで8 年半という歳月を日本で過ごしたが、選んだ道に間違いはないと考えている。
将来は母国のために、習得した知識や、私が日本に住んでいる間に経験したことや学んだことなどを活かし、母国の教育や技術の発展に繋がるように努力したいと思う。現在、近年の電波利用ニーズの増大による周波数資源の逼迫状況を緩和できるミリ波帯固定無線アクセスシステムに関する研究を行う。私の母国であるベトナムはまだ発展途上国であり、実践的な角度から無線通信工学を研究することは必ず国のために役に立つと思う。私は情報通信工学についてさらに深く詳しく勉強し、将来この分野の専門家になりたいと考えている。また自国ではいろいろなものを開発する研究者や技術者がまだ少ないので、自国の発展に貢献するために、もっと高いレベルの教育課程まで進みたいと強く思っている。その希望を実現するために博士課程へ進学したかったのである。
貴財団奨学生として大学院に留学できるチャンスを生かし、研究のみならず国際交流活動に積極的に参加していきたい。東京では、各国から集まる同志とともに学び、将来にわたってつきあうことのできる友人をつくりたいと考える。そして国際親善の裾野を広げるために先頭に立って、国際ボランティア活動や国際協力活動に率先して取り組んでいきたい。貴財団奨学生の使命は、留学期間中に限らず、一生にわたって母国と日本との相互理解を促進するという目的を全うするものであると考えている。今回の留学は私にとっては、この道を今後の人生の方向を定める大きな一歩としていきたいと決意を新たにする。 |