先月、私はひとつの節目を迎えることができた。というのも、希望していた就職先に内定した。私は、日本の就職活動を体験する中で、多くの文化の違いを感じた。双日国際交流財団の奨学生の中には、日本で就職したい人も少なくないと考え、本エッセイでは、私の就活の一部を紹介したい。
まず、私が驚いたのは、グループディスカッション(GD)という選考方法だ。私の故郷ドイツで行われる議論は、互いに意見を戦わせるディベート方式が通常だ。それに対して、日本は「意見調整」が主流だ。仮に、ドイツの攻撃的な議論手法を日本の選考に持ち込んだ場合、選考官に「クラッシャー」と認識され、低い評価を受ける可能性が高い。面白いことに、ドイツの議論方式とクラッシャーの特徴は類似している。例えば、「意見に批判する人」、「自己主張が強い人」という点だ。私は、23年生活してきたドイツでしみついた議論態度をすぐには変更できず、落選続きの日々を過ごした。克服できた理由は、海外と日本の議論にある本質的な違いを理解したからだ。ドイツは「積極的に自分の意見を主張する」、日本は「積極的に相手の話を聞く」という違いがある。聞く姿勢で大事になるのが「傾聴力」というドイツ語には翻訳できない能力だ。傾聴力とは、「みんなが話しやすい環境を作り、相手の意見を引き出す」ことだ。つまり、「空気を読む」ではなく、「空気を作る」という考えの転換が、私にとって一つの突破口になった。
次に、日本の就職活動で面白いと感じたのは、「個人戦」より「チーム戦」という側面が強いことだ。ドイツの就職活動は、一人で募集を探し、一人で対策を行い、一人で選考に進むと、個人戦の色が強い。しかし、日本は個人よりもコミュニティーの存在が強い。例えば、OB・OG訪問という仕組みだ。学生は、自分と同じ大学・所属学部・サークルに在籍していた社会人の先輩と優先的に出会え、会社に関する情報、選考のアドバイス、特別選考のルートの紹介などのメリットを享受できる。ただ、私のような日本の先輩・後輩の人間関係を経験しなかった外国人は、そういった関係性を頭で理解しても、すぐに実践できるほど慣れていない。しかし、先輩・後輩以外にもコミュニティーがあったことが私の救いだった。それは、就活生同士のつながりだ。なぜ就活生の間で結束があるかというと、日本の仕事選択は一世一度だからだ。失敗が許されない社会環境があるからこそ、協力関係が生まれやすい。また、インターンシップの増加や就活支援企業の台頭による「就職活動の塾化」で、より他大学の学生と長時間関わる機会が増えた。私は、前者の「OB・OGのすでにあるコミュニティー」ではなく、後者の「一から自分で作る就活生同士のコミュニティー」を活用した。
最後に論じたい点は、就職活動の目的の違いだ。ドイツの就活生は、給与や勤務時間など、条件が良い会社に行くことを目指している。一方日本は、自己分析を多く行い、その上で自分に合う会社を選択することを目的としている。ドイツ人の私にとって、知るべき対象として、自分と会社が並列に扱われることは斬新だった。そのおかげで、私は今まで知らなかった自分を知ることができた。
日本の就職活動は、海外から「一括採用は不便、個性がない、意味のない選考対策が多い」と評価されがちだ。しかし、実際経験してみて、私の就職活動に対するイメージは良い意味で変わった。「何事も経験してみないと分からない」とはまさにこのことである。
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