私は来日して、現在6年目になりました。この6年の間、苦しんだことも、嬉しいこともありました。私にとっては苦しんだことは多かったかもしれないが、これは私にとっては貴重な経験です。私は横浜国立大学大学院の修士課程を修了後、一年研究生として在学し、西日本の芸大といわれている広島市立大学芸術学研究科の博士後期に合格し、現在広島市立大学で芸術活動を行っています。
私の故郷であるウイグル自治区の大学の教員たちの中に絵画技法に詳しい専門家は多くありません。大学等の研究機関で画材の科学的な知識が浅薄であり、油彩画の表面的な描法に終始したため、私たちは基本的なものしか教えられてきませんでした。私たちも大学卒業後に大学時代のままの技術で絵を描き、制作を行ってきました。しかし、私が来日した後、絵画とは何かについて考えを深めること、あるいは絵画技法や絵画の科学的な知識を知ることができました。
画家は自らの目指す絵画表現について常に思考し、その実現の為に最も相応しい技法や材料について日々探求しています。その上で自らの目指す表現のためにどの様な技法、材料を使用するべきか、自らに合った技法、材料は何かを深く理解し駆使できる技量が必要であると考えています。
私は横浜国立大学修士在学中の研究の続きとして、混合技法を用いて、時が経過することによって剥落、劣化、風化を作品に表現する事とともに、混合技法に於ける重層構造の剥落、劣化、風化のマチエール(絵画の絵肌)に与える質感、そして、このマチエールの画面の透明層と不透明層が如何なる影響を与えるかを検討します。この背景には、筆者の今までの制作に於いて重層化した絵の具が、剥落、劣化、風化のマチエールの激しさで、透明絵の具の透明性及び光沢がなくなってしまったという経験がありました。そのため、こういう問題の原因をいっそう明らかにする、そして問題を解決する必要があります。更にこの剥落のマチエールの上に、テンペラ層と油彩層を何層も重ねていく作業によって、画面で出来上がったマチエールを如何に活かしていくかを研究するとともに、画面のバランスを如何に保持しながら作品を完成させるのかを調べ、検討するべきだと考えています。さらにはウイグル自治区のキジル石窟と関連して、自己作品における装飾性のあり方を模索しています。装飾性に関して具体的に言えば、銀箔を用いて、銀箔上の絵の具の発色、硫化による独特な表現効果から自己作品の新たな表現効果を作り出すことを目指しています。
私は将来、博士後期課程を修了後、故郷の美術を学んでいる若者たちに自分が日本で学んだ知識を教えながら、故郷の絵画領域の発展に貢献していきたいと考えています。
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