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奨学生エッセイ
2019年度
 
奨学生エッセイ
 
 
 
心の思いを伝える大切さ
ベトナム出身/2015年7月来日
大阪大学大学院 経済学研究科 博士前期課程2年在学中
趣味:旅行、音楽
将来の夢:日本とベトナムの架け橋のような存在になる
研究テーマ:自己決定性理論に基づく動機付けのタイプと職務満足感との関連性
 
 

日本語を学ぶ時、ベトナム人の私にとって、漢字は大変難しいです。勉強し始めた頃、初級の漢字でさえ、書くことはもちろん読むことも大変でした。習得するまでに、たくさん時間をかけて練習しました。しかし、初心者でも分かる漢字の一つといえば、心という漢字でしょう。

心は人間がただ生きるために不可欠な臓器としての意味以外に、人間が人間らしく生活するために大切な感情、思いやり、道徳等の意味があります。大変美しい言葉でもあり、大変奥が深い言葉です。そのため、心で思っていることを一言で言い切ることはできません。しかし、心の中にある複雑で奥が深くて美しい気持ちを"伝える" ことが私たちの人生において大切なことだと私は思っています。

私は日本に来て初めて、私を一番大切に思ってくれているのは自分の家族であることに気づきました。もちろん私にとっても家族は大事な存在です。家族のみんなが幸せになってほしいと思いながら、毎日、日本で勉強などを頑張っています。「今、心の中で1番に思っている人は誰ですか?」と聞かれたら、私は迷わず"家族" とすぐ答えますが日本にいる私は色々忙しいため、毎日家族と話せるわけではありません。ある日、「日本語を教えて」と弟からメッセージが来ました。突然のことで驚きましたが、弟が頑張って書いたひらがなをチェックして教えてあげました。しかし一週間ほど経つと、私も日本で忙しいので、教えるのをやめようと思い、弟にこう質問してみました。「日本語を真剣に勉強したかったらちゃんと学校行こうよ。あたし時間がないから。でもどうして勉強したいの。いきなり。彼女に振られたの」。弟からは意外な答えが返ってきました。「お姉ちゃんは日本に行ってから、もうおれの生活に一切関係ない存在になったような気がして、嫌だった。こっちからお姉ちゃんの生活に関わろうと思ったら、たった一つの方法しか考えられなかった。それが日本語を学ぶことだった」と。その夜、私は涙が止まりませんでした。そうか、そういうことか。振り返ってみると、私は家族がいつも心の中にいると言ってばかりいますが、家族へ気持ちを伝えることが足りてないことに気づきました。「今日はどう?」という母からのメッセージや「毎日ちゃんと食べている?」という父からのメッセージが来た時、「普通」と返事したり、後で返事するつもりが忘れて1週間放置したり、ということがよくありました。

いったい、心の中にいるというのは何でしょう。私たちは、「心の中に家族がいますか」と聞かれると「はい」と多くの人が答えると思うのですが、家族によく関心や心配等の気持ちを目に見える形で、表す人はそれほど多くないと思います。自分が相手を心の中で大切に思っていることだけに満足するのは、自分勝手な満足だと思います。気づかないうちに、大事にしたい人を傷つけてしまい、将来後悔するかもしれません。私も実際に、心の中では家族を1番に思っているのに、弟に寂しい思いをさせたり、両親に心配をかけたりしてしまいました。

人間は言葉と行動でコミュニケーションをとるため、それらの方法で伝えない限り、相手に自分の心の中の気持ちを分かってもらえず、意味がないものになってしまいます。そのため、私たちの心の深いところにある気持ちや感情などは、そのまま心に保管するだけではなく、言葉や行動で表して伝える必要があると思います。また、普段の生活で人と話をするとき、いつも心を込めた言葉を使うことで、自分の思いや相手を大事に思っている気持ちは伝わり、相手を幸せにすることができるでしょう。

 
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