初めて日本の土を踏み、その人を知ったのは大学受験を終えたすぐの一年間の交換留学のころであった。その当時通っていた大阪府立池田高校は少し変わった風習があり、文化祭が「承風祭」と称していたことは未だに記憶に残ります。当時は言葉の壁も高く、あまり深堀りできなかった「承風」。数年後気になってその意味を探ると、「孔子家語」の第二好生編、孔子が舜王を讃えた「是以四海承風」という一句に由来したとのことに、感銘を受けたことを覚えています。
池田高校の同窓会である承風会は「先人の遺風を立派に継承し、この地が四季折々の変化の中にあっても、毅然としている」と言う意味で、その一句を解釈しています。「是以四海承風」は本来「四海(すなわち世界)に風(おしえ)を承ける」という意味ですが、「異なる類いを学び成長する」という意味もできると思いました。さすれば、自分がここ二年触れてきた文化と重なるところが多く、不思議な縁を感じることは否めないものです。
「承風」の概念から垣間見える日本の「承前啓後」の精神は、過去の文化という遺産を受け継ぎながらも、新しい時代を切り開こうとする姿勢が見えるでしょう。例えば、華道や詩などは、古代からの技術と美学を尊重しつつ、現代の感性を取り入れて進化しています。また、祭りや伝統行事では、歴史的な儀式を保ちながらも、新しい要素が加わり、若者たちが積極的に参加することで継承されています。
狂言の世界でも近年、ファイナルファンタジーというゲームやエルビス・プレスリーの生涯など、とても斬新な内容を題材にした舞台が続々と出て、めぼしいものです。英語で語ったエルビスの能楽や、青森のねぶた祭りにてピカチュウの姿が現れたりするように、日本の「承前啓後」の取り組みは、伝統と革新のバランスを保ちながら、より豊かな文化を次世代に引き継ぐことを目指しているでしょう。
この精神は、アニメ、漫画、ゲームといった現代のポップカルチャーにも色濃く反映されていて、古を新にするのみならず、新を古から受け継ぐことも多々あります。例えば、スタジオジブリの作品は、日本の伝統的な価値観や自然観を取り入れつつ、新しいアニメーション技法や物語論を駆使して世界中に感動を与えています。
また、『パリピ孔明』や『サムライせんせい』といった、一見「ふざけた」ようにも見える漫画は、歴史的着想を得ながらも、現代の社会問題や心理描写を巧みに、かつ真撃に織り交ぜています。これらの作品は、過去を受け継ぎながらも、新しい世代に向けて革新を追求する日本の「承前啓後」の精神を体現しており、国内外ともに高い評価を受けています。
ここ二年、その新旧が交差する真っ只中にいたと思うと、自分がいかほど恵まれていたかという実感が改めて湧きます。この運命の行き交う東京に友と自然に過ごした貴重な時間を重ね、自分という「風」が紡がれてきたように、自分がまた人に継承される追い風となれますよう、これからも倦まず弛まず努めてまいりたい所存です。

2023年4月、「新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX」の公演にて

2024年5月、日暮里の天王寺で開催された「古流かたばみ会展2024 」にて 大塚理航先生作の現代華

2024年7月、「英語能 青い月のメンフィス」の大隈講堂公演にて
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