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奨学生エッセイOB・OGからのメッセージ
 
 
 
「文化と国民性がEビジネスにもたらす影響」 ソン スイ
中国出身。2001年来日。現在、横浜国立大学大学院に在学中。
趣味は読書。特技は英語。
 
 

I.はじめに
背景
ITとEビジネス――20世紀末期から頻繁に耳にし、目にした言葉。21世紀の経済、経営を語る時には欠かせないキーワードでもある。

90年代、日本の失われた10年という風に言われていた。一方、90年代のアメリカの景気拡大が10年も続いた。その間に、アメリカ経済、好況、不況という景気循環が消滅し、インフレなき経済成長が続くとする説。従来の経済学では説明がつかない現象であることから、新経済(ニューエコノミー)までと呼ばれた。しかも、90年代後半から目立ってきた「IT革命」がさらにその経済を引っ張り、生産性を向上させていくことで、インフレなき経済成長が可能になるではないかと考えられた。しかし、2000年9月「インテルショック」を発端にしたITバブル発端となった。景気循環が消滅したと思われたアメリカ経済もしぼみ始め、あれほど騒がれた「ニューエコミー」は瞬時に消えてしまった。

問題意識
ITだけで一つのビジネスモデルは成り立たなく、ITはすでにビジネスの一つの道具にしか過ぎないような時代がやってきた。その中で各国のEビジネスはどう生き延びるのかというのは面白い課題になると私は考える。

私が思うように21世紀世界経済を引っ張る最も重要な牽引力として考えられるのはアメリカ、日本、中国である。この3ヶ国を舞台にしたEビジネスを比較、研究し、アメリカ、日本、中国3ヶ国の文化と国民性がEビジネスの発展に及ぼす影響を明らかにしたい。

II.先行研究(サーベイ)
1.Eビジネスとは何か

1997年、IBMはインターネットを活用した新しいビジネス形態をEビジネスと呼び、世の中に提唱した。いまでは、一般的にEビジネスというのはインターネットのみならずEDI(Electronic Data Interchange)やCALS(Commerce At Light Speed)などのコンピューター・ネットワークをインフラとして、顧客や企業間の取引をオンラインで行うeコマース(電子商取引)を始め、情報提供やマーケティングなどネットワークベースで行われる業務活動全般を意味するものである。

その背景として情報技術革新とマーケティングの成熟をあげることができる。情報とは学習(知識・経験の再構築)及び意思決定の素材である。情報技術革新は、単なるインターネットだけではなく、そのEDI(Electronic Data Interchange、電子データ交換)の発生から始まり、CALS(Commerce At Light Speed)を含めて機能と範囲を拡大してきてきたものである。マーケティングの成熟はマス・マーケティングからワン・トゥ・ワン・マーケティングへの進展があげられる。そしてeビジネスは、個人と企業、企業と企業との間で新しい取引形態が生まれるが、この形態は取引相手の違いによって次ぎの三つに分類する。

B to B(企業間取引)
自動車メーカーと部品メーカー、加工メーカーと原料メーカーなど従来の企業間の取引にインターネットを利用するものである。

B to C(企業と消費者間の取引)
従来の小売業をインターネットに置き換えたものである。書籍を販売するアマゾン・ドット・コム等の商品を販売するサイトや消費者に有益な情報を無料で提供し、その代わりに広告で利益を得るサイトなど、企業が消費者に直接商品やサービスを提供して利益を得るものはこれに該当する。

C to C(消費者間取引)
従来のフリーマーケットのように、消費者同士が取引を行うものである。この取引形態は、インターネットオークションで見られる。
(注:ここで「B」や「C」はBusiness(企業)、Consumer(消費者)の頭文字を取ったものである)

III.アメリカ、日本、中国3ヶ国のそれぞれの文化と国民性がEビジネスに
もたらす影響。

アメリカ、日本、中国の3ヶ国の文化と国民性
日本は集団主義の国であって、「和」を大切にする民族である。日本では人と違ったことをしてはいけない」「人とは仲良くしなければいけない」「人を言い負かして和を乱してはいけない」の教育をしている。ちなみに、学校の制服を見てください。日本では人と違わないような服装を親・学校が着せようとし、ユニフォームを作る学校が多々ある。一方、アメリカは個人主義の国で、個性を尊重し、学校のユニフォーム等の規制はない。アメリカの教育では「人と違ったことをしよう」「人の考えつかないことをしよう」という意識を教育で植え付けている。

最近、アメリカのように優秀な人材がベンチャー企業にはいって企業家を目指すスタイルに変わっていくだろうと期待されていたが、この傾向はほんのわかずの進展しか見られない。数値の例で見ると、自営業では、日本での自営業者の減少が著しい。1988年には、704万人を数えた農業以外の自営業者が97年には、610万人、約100万人も減少してしまった。日本は、ここ10年間に農業以外の自営業者が減少した唯一の先進国である。現在610万人いる自営業者も、その多くは20年以上前に起業した50、60歳代の人々が占めている。(http://www.president.co.jp/

20、30代の自営業者、起業家の激減は、日本人全体が自らの意思と責任で事業を行う気概を失い、「寄らば大樹の陰」の傾向が一層強まったと思われる。

アメリカの大学では最も優秀な学生は自ら会社を興す。そうした能力のない平凡な学生がいわゆる大企業を目指す。アメリカでは起業家は憧れであり尊敬の対象になる。しかし、日本では官庁や大企業の人事ヒエラルヒーを上り詰めた人が叙勲される。日本においても、起業家の成功を称えるシステムをつくり上げる必要がある。税制においても、土地政策においても、叙勲制度においても、マスコミ評でも起業家にもっと利益と名誉を与えなければ、寄らば大樹の風潮は改まらないだろう。

一方、中国の場合、中国人もアメリカ人と同じように、非常にチャンレンジ・スピリッツを持っていて、ベンチャー精神の旺盛な民族である。中国の大学生やビジネスマンに「将来はどういう仕事をしたい」と尋ねると、大抵の人は「将来は企業家になりたい、事業を興したい」と答える。また、科学技術の水準や潜在力は高いし、コンピューター・ソフトの天才的な開発能力をもった人材も大勢いる。これらの技術や人材を生かす精神風土の元で、起業家が積極的に養成されてきた。

アメリカ、日本、中国の3ヶ国とEビジネスにおいての発想の違い
アメリカは世界経済を牽引する存在であって、Eビジネスの世界でも新しいビジネスモデルと新しい潮流を作り出し、数多くのアメリカ企業がその業界でいろいろなデファクトスタンダードを世の中に定着させた。もはや、アメリカの標準とルールは世界共通のものだと言っても過言ではない。

一方、日本は単一民族の島国であって、共通するルールや常識多々ある。そのような「阿吽の呼吸」の中で育った日本のビジネスモデルをワールドワイドに展開する場合は、「阿吽の呼吸」を改めて明示化し、文書化しなければならない。この差は、日本企業がワールドワイドに展開する時の大きなハンディとなっている。

またもう一つの大国中国の場合、中国人も、小さな会社の時からワールドワイドに進出することに、まったく抵抗感がない。むしろ、海外に対する憧れを持って創業する時から、世界進出を目指している。

しかし、現在の中国IT産業のレベルでは、未だにワールドワイドに通用するような製品や体系化されたサービスを提供することができない。アメリカや日本から要求のあったシステムの開発やソフトウェアパッケージの開発を中心に、安く勤勉労働力、優れた頭脳、大量の人的リソースをキーに先進国に進出している状況である。

たとえば、システム開発では、日本やアメリカの企業からの請負で仕事を進めている。

日本向けのシステムの開発では、仕様書に書かれた内容の行間を読む業種や業務の知識に乏しいので、仕様書に間違いがあっても、仕様書に忠実にソフトウェアを作る。特に、日本人の仕様書は、どちらにも取れるようなあいまいな表現があって、言わば「以心伝心で行間を読め」というような仕様書が多いため、受託する方は大変な苦労をする。その上、日本人から見ると当然気がつくようなミスも指摘せず、中国側が仕様書に忠実に製造して、完成後に作り直す事態が発生しているという。

一方、中国のEビジネスについて言えば、現時点では、ハードウェア中心の産業である。

2004年度推定では、3兆8,500億円の市場規模に対してハードウェア2兆8,500億円(74%)、パッケージソフトウェア5,400億円(14%)、サービス4,600億円(12%)の市場内訳となっている。(参考文献:「中国ソフトウェアの都−北京」 北京ソフトウェア産業促進センター長 姜広智)

ちなみに日本では、10兆5,900億円の市場規模に対して、ハードウェア4兆4,300臆円(42%)、パッケージソフトウェア1兆8,300億円(17%)、サービス4兆3,300億円(41%)の市場内訳となっている。

そもそも中国のIT産業においては、世界に発信できる先端技術は、余り見たらない。現在、世界から流入してくる情報システム関係の製品やノウハウを習得している段階だ。業務のノウハウは、業務システムの開発受託を通して日本企業から学び、新しいビジネスモデルや先端技術(個人認証、多言語翻訳、インテリジェント・カードシステム等)の領域についてはアメリカから学ぼうとしている。

中国の業務システムとしては、銀行系のオンラインバンキングやクレジットシステム、テレコミュニケーションの課金システム、運輸のチケット予約システム等のシステムが導入されている。また、最近では、日本やアメリカの企業に対するコールセンターや受注センターの代行入力のようなビジネス・プロセス・アウトソーシング事業にも積極的に取り組んでいる。

ソフトウェアの領域では、会計パッケージや医療システムのパッケージのような国内向けパッケージで成功している中国企業も現れている。しかも、法律の面でも、IT産業の業界では、中国では未だに「知的財産権を保護する」社会が確立されていないから、日本人にとっては何が起きるか分からない常態的財産権保護法の制定。政府部門から正規版のソフトウェアの購入を開始するなどの対策をとりつつある。しかしながら、現実には製品のコピーや模倣品の横行、契約しておきながらサービスに対する完了後の値引き交渉、支払いの引き延ばし交渉など、世界的な商習慣からすると妥当ではないものまで、交渉の内容になる。

IV.終わりに
今後各国のEビジネスモデルは発信源のアメリカに追随しつつ統合する流れになるではないかと考える。しかし、その中でビジネスモデルは各国それぞれの国民性や社会体質などに影響される部分が多々あると思う。強いていえば、今後のEビジネスモデルはバーチャルの世界でリアルを追求する傾向が強まるので、そういった意味でも国民性や社会体質を考慮しる上に、ビジネスを考えるべきであろう。

V.参考資料
・飛び出せ日本人!日・米・中国人のビジネスと行き方(創栄出版 工藤秀憲)
・楽天の研究―なぜ彼らは勝ち続けるのか(毎日新聞社 山口敦雄)
・失敗から学ぶe-ビジネスの経営戦略(SCC BOOKS 矢矧晴一郎)
・日経ビジネス(2005年10月31日)
・ソーシャル・ネットワーク・マーケティング 21世紀型―『コミュニティ・マーケティン
グ』と『顧客クラブ』(ソフトバンククリエイティブ 山崎秀夫)
・動きだした中国巨大IT市場(三井物産戦略研究所中国経済センター 寺島実郎
沈 才彬)

 
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